Sitting on the Fence #6
文: 木本 和久
写真:光永 知恵
25時以降握り締め続けていた携帯電話が鳴ってからのことはよく覚えていない。ただ、朝になってもお互い、さようならを言おうとはしなかった。その中で僕は、ルミが2年前に離婚したこと、あの町に建った新しいマンションに住んでいること、そしてローリング・ストーンズをはじめとするロックン・ロールを聴き続けていることを知った。
お互いの部屋から見えた空があまりにきれいで、僕らはどちらからともなくこう言った。
「これから会おうよ。」
さて、到着だ。現在では廃校となり、校舎が取り壊されグラウンドだけになった僕らが通っていた小学校の校門をフルスピードで突破した。
想像していたよりも小柄な女性が、昔のまま残っている海沿いの錆びたフェンスに腰掛け、運転する僕の方を向いて、小さく手を振っていた。彼女の背後に、巨大な風力発電機群が並んでいるのが目に入る。僕は、カー・ステレオのボリュームを最大にしてから、車の窓を開け放った。僕らが、ロックン・ロールに出会い、夢中になった頃、すでに伝説になろうとしていたこの町出身のロック・アーティストが歌う。
フェンスに腰掛け 明るい空の下(#ルースターズ『Sitting On The Fence』より)
考えているところ これから何をやろうかな
フェンスに腰かけ 遠くを眺めて
待っているところ イカす悪魔の訪れ
エッジのきいたギター・サウンドが海風に乗り、フェンスの向こうへ突き抜ける。音を受けた風力発電機のプロペラたちが、ぐんとスピードを上昇した。
ハンドルから手を離し、両腕いっぱいに光を受け止めるんだ。
© Chie Mitsunaga(光永 知恵) |
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The Roosters / Sitting On The Fence