2013年12月26日木曜日

Sitting on the Fence #3

文: 木本 和久
写真:光永 知恵

 ポンコツ車は、相変わらず白煙と騒音を撒き散らしながら、目的地へ向かってくれている。あと、5分くらいで到着する。少々、話を急ごう。

『ロックン・ロール会』は、それぞれが別の高校に進学しても、しばらく続いた……いや、しばらくして終わった。狭い水槽を回遊するような生活をしている十代の僕らにとって、違う高校に通うということは、別々の国に住むようなものだったからだ。
 また、いつからか矢部とヨシコが付き合い始め、『ロックン・ロール会』よりもデートを優先するようになった。自然と、僕とルミの二人きりの『ロックン・ロール会』となった。

 忘れもしない、高校1年の夏休み……ルミが前年に購入したローリング・ストーンズの“アンダーカバー”のレコードを二人きりで聴いていた。
「最近、メンバーの仲が悪いらしいよ」
「うん、そうらしいね。でも、アルバムはかっこいいよな」
「そうね。だから、心配ないと思うんだけど。バラバラになっちゃ嫌だな。せっかく、ミックやキースたちが出会って作り出したバンドなんだから、仲良く仲間としてやり続けて欲しいの」
「どうなんだろうな。ロックン・ロールのミュージシャンって、我慢が足りんそうやけん、バラバラになってしまいそうな気がせん?」
「だから、心配なのよ。私たちが仲良くなったのも、ロックン・ロールのおかげでしょ?心配なの……ローリング・ストーンズも私たちも。バラバラはいやなの」

 ちょうど、A面が終わり、居心地の悪い沈黙が降りてきた。青臭い話には付き合ってられないとばかりに、最新機種のプレイヤーは、自動でレコードをB面へひっくり返す。プツプツとその沈黙を突付くようなレコード・ノイズの後、軽快なディスコ・ラインをベースが奏で始めた。
 トゥー・マッチ・ブラッド!
 アルバム中で、僕が最も好きな曲だ。僕の気分は、ぐんぐんと高揚していく。ここは、男として決めんといかん。トゥー・マッチ・ブラッドな感じで、決めんといかん。
「大丈夫ぜ。そんなことになったりせん。もし、そうなっても、ロックン・ロールを捨てんかったら、大丈夫。別れっぱなしにはならん。遠く離れても、ロックン・ロールで繋がり続けるのが、ロックン・ロールやけん」

 ルミは、しくしく泣き始めた。
「俺の言葉に感動している」と思い、横に座っていたルミの肩を抱いた。そうされたルミは、僕のTシャツの袖を握り締めて、泣きじゃくった。
 トゥー・マッチ・ブラッドな感じに間違いない……そう確信した。
 曲は佳境に入り、ミックがシャウトを続ける。僕は、意を決して、ルミの両肩を掴み、顔を近づる。決死のファースト・キス。
 火花が錯乱した。
 ルミの握った拳で、鼻の付け根を打ち砕かれた。
 両方の鼻の穴から、血が流れ出てきた。
 まさしく、トゥー・マッチ・ブラッドだった。

© Chie Mitsunaga(光永 知恵)

……続く

Sitting on the Fence #1
Sitting on the Fence #2
 
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