京町のお稲荷さま
井筒屋本館の屋上から雑居ビルの屋上にあるお社を見つけたのは前の記事に書いた。
その正体を見たいと急いで下りて、京町の方へ行ってみたのだが……。
上から鳥の目でみるのと地上で虫の目で見るのとは大違いで、どのビルなのかさっぱりわからない。そこで目の前にあった岡林カメラに入って訊いてみることにした。
「ビルの上のお社?」
「わたしらも最近ここへ引っ越してきたので詳しくないのよ」
「ちょっと訊いてみるから、待ってて」
と親切に同じフロアの隣のお店の人に訊いてくれたのだが、確かにこの京町にはいくつかお稲荷さまの社があるらしいのはわかったものの、それがどこかは知らなかった。
「そうだ、ガラス屋さんなら知っているかも」
と言う。
「でもあそこのオヤジさん、気むずかしいからね……」
と言うので、自信がゆらぎ、ぼくが直接行っても難しかろうとついてきてもらった。
「あのう、この辺のビルの屋上にお社があるらしいというのですけど……」
と訊ねると、
「うちにもあるよ」
と言うではないか!
「こっちだよ」
と奥に案内してもらったら、確かに小さなお稲荷さまが鎮座していた。
オヤジさんの話では、京町には3つ残っているという。
昔、大火があってお稲荷さまが守ってくれたとか。
「それでぼくが井筒屋本館の屋上から見たお社があるビルはどこでしょうか?」
と訊くと
「隣のビルだよ」
と言う。
岡林カメラの正面のビルがそうだったのだ。
「屋上へ行けるでしょうか?」
「別に鍵もかかってないから、行けるよ」
となんともあっけなく疑問は解けた。
……続く
© Junichi Nochi(野知潤一)