まだ、ちょっと早いかね
人っ気のない広場を去ろうとしていると、そんな声が聞こえてきた。
声の先を見れば、お婆さんが急な斜面で紫陽花の花枝を摘んでいた。
そうですね、あと一週間ほど先のほうがいいのじゃないですか
そう応えたら、斜面を上ってきた。
どうやら脚が悪いらしいので、途中まで下りて、手を引いてお手伝い。
ありがとうね
それからしばらく話をした。
ご近所に住んでいる方で、森さんという。
数年前に事故で高所から落ちて、それ以来、足と腰が不自由になったとか。
写真を撮っていいい?
こちらに目線ください!
そういうと照れていたが応じてくれた。
そういえば、この広場に上る途中の小径でアザミを見かけたことを思い出した。
お婆ちゃん、ちょっと待っててね。
そういって小径を下り、アザミを二本とって戻ると、とても喜んでくれた。
また、会えるといいな。
会いたくなれば、この広場に来ればいい。
きっと会えるだろう。
この広場の名前を訊くと、八幡公園だよと教えてくれた。
その奥の道から、八幡神社へ行けるから、行ってみればいいよ。
……続く
© Junichi Nochi(野知潤一)