幻視行―小倉城
今、見ている光景は、他の人も同じように見えているのだろうか?
こういう疑問をいつも持っている。色や形のことだけじゃなく、根本的に人が見ている光景は違うのだという思いがあるからだ。
小倉城のある光景は北九州人には馴染み深いものだが、ではこの光景は昔からあったのかというと、そうではない。小倉城の天守閣は、1837年、城内から発した火災によって全焼して再建されなかったので、幕末から昭和までここにはお城の姿はなかったのだ。
>明治10年の西南戦争の際には、小倉城内に駐屯していた歩兵第14連隊が、乃木将軍に率いられて出征……その後は、歩兵第12旅団や第12師団の司令部が城内に置かれ、太平洋戦争後は米国に接収、1957年に解除され、1959年市民の熱望によって天守閣が再建
という経緯をたどって今の姿がある。
ぼくの生まれた頃は、米軍の管轄地だったというのも驚きだが、昭和34年に天守閣を再建した当時の小倉市民の思いというのどういうものだったのだろうか。
幼少の頃の記憶では、小倉城前の勝山公園にはジェットコースターがあった。妹は心臓に疾患を持っていたのでぼくだけが乗って、手を振った記憶がある。
この景色を見ていると、時間は数十年前にタイムスリップするのだ。
© Junichi Nochi(野知潤一)