この細道はその内の1つだ。
普段なら気にも留めず過ぎ去るのだが、この日、ふと目をやると1人の女性が立っている。
その存在がこの薄暗い細道の雰囲気を抜群のものにしていた。
だから僕は思わずシャッターを切った。
1枚撮れば充分なのだが、気づくと何枚も撮っていた。
それでも彼女は僕の存在には気づかない。
どうやら広告に見入ってしまっているのだ。
この時は彼女が何の広告を読んでいるのか僕にはわからなかったが、家に帰りパソコンの大きな画面で見た瞬間、僕の心が踊った。
彼女は『世界一周』の広告をずっと見ていたのだ。
旅好きの僕には彼女の頭の中が嫌でもわかってしまう。
彼女は既にここにはいない。
もう"遥か彼方へ"と旅立ってしまっている。
だから僕の存在には気がつかない。
気がつくはずがない。
自分の中で納得がいった。
© Tomoyuki Tanida (谷田 智之)